居酒屋をこよなく愛する太田和彦さんが、ふらりと訪れた今回の旅先は青森県弘前市。本州で最も遅く桜が咲く弘前城を背景にスタートします。和と洋、歴史と今が交差するこの街で、太田さんが見つけた老舗の名店をご紹介します。
名棟梁が遺した、木造洋館の名建築群

まず太田さんが足を運んだのは、明治の名建築「旧第五十九銀行(現・青森銀行記念館)」。弘前には多くの洋館が残りますが、その理由の一つが、弘前藩に仕えた名棟梁・堀江佐吉の存在があります。西洋に渡ったことはないにもかかわらず、堀江佐吉は独自に技術を研究し、木造で洋風建築を次々と実現しました。

堀江の晩年の傑作「旧弘前偕行社」には、広々としたダンスホール、ビリヤード場があります。天井の装飾には第八師団にちなんだ蜂の意匠まで。細部まで凝った作りに太田さんもしみじみ見入っていました。
太宰治とアップルパイ、文学の香るカフェで一息

弘前といえば、文豪・太宰治の故郷でもあります。旧制弘前高等学校の門前には、少年時代の太宰の写真と詩が刻まれた文学碑が立ち、太宰治の青春を偲ばせます。

すぐそばには、外国人教師館を改装したカフェがあり、太田さんはここで弘前名物のアップルパイとマイルドコーヒーを注文。「これはうまいわ」と目を細める太田さん。弘前はリンゴの生産量日本一を誇り、市内には40軒以上のアップルパイ専門店が点在しているとか。
再会の「土紋」で味わう、津軽の家庭の味と銘酒

日が暮れた頃、太田さんが向かったのは、6年ぶりの訪問となる居酒屋「土紋(どもん)」。40年以上にわたり夫婦で暖簾を守るこの店は、太田さんにとっても特別な一軒です。再会を喜び合いながら、弘前の銘酒「豊盃(ほうはい)」を盃に注ぎ、「こたつに当たっているような味」と、懐かしさと温もりを味わいます。

料理はどれも素朴で優しい家庭の味。「いがめんち」(イカのゲソを玉ねぎと練って揚げた料理)や「ナスのしそ巻き」、「イカのわたの醤油漬け」など、地元ならではの一品が次々と登場。「おいしい」と箸を進める太田さんに、お母さんのような笑顔で女将が応えます。

「60過ぎて楽しくなってきたんですよ」と語るご主人。その言葉に太田さんも「理想的な人生だな」としみじみ。この街の、変わらぬ味と人の温かさに包まれて、心から満たされる夜となりました。
第147回「青森・弘前市で和洋折衷の風情と銘酒を堪能」まとめ
堀江佐吉の建築、太宰治ゆかりの場所、そして「土紋」での再会と郷土料理の味わい。弘前の魅力が詰まった今回の旅は、太田さんが「僕の大好きな街」と語るのも納得の、味わい深いひとときでした。詳しい内容はぜひ番組をご視聴ください!